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検察庁法改正における議論の真のポイント(弁護士解説)

はじめに

昨今、検察庁法改正がSNSからワイドショーまで世間の話題となり、さまざまな議論が行われています。

しかし、中には専ら感情的なコメントや、合理的な反論があるにもかかわらずそれを無視した一方的な意見が多く、真に重要なポイント・争点を的確に捉えた議論は少ないように思います。

私も国会中継で議論の行く末を見守りましたが、国会での議論ですら、まともにポイントを捉えたものになっておらず、議論が噛み合わない場面がみられます。

そこで、本稿では、検察庁法改正の真のポイントを明らかにしていきたいと思います。

(コアラ弁護士のブログとしては珍しく法律の話題です。。)

※政府側はいったん審議を取り下げることとしたようですが、次の国会で再び審議にかけることを意図しているようですので、このタイミングですがまとめます。

 

検察庁法改正における議論の真のポイントは?

 

与野党で意見が分かれている箇所は?

 

公務員定年の一般的な引き上げについては野党も賛成

一般の国家公務員の定年を現在の60歳から65歳に引き上げることについては、野党も賛成しています。

問題は、これとセットで国会に提出されている検察庁法改正案です。

検察庁法改正案の中でも、検察官の定年を63歳から、一般の公務員と同様に65歳まで延ばすという点は、野党も賛成しています。問題はその先です。

検察官の定年には、次長検事、検事長などの幹部は63歳になると役職のない「ヒラ」の検事になる、役職定年という仕組みがあります。

今回の政府の案では、

  • まず、定年を65歳に引き上げ。
  • 検事総長については、65歳から3年間(68歳まで)、内閣の判断により、検事総長のポストに残れる(特例①)
  • 63歳で「ヒラ」検事になるはずであった次長検事と検事長も、その後3年間(66歳まで)内閣の判断により、それらのポストに残れる(特例②)

とされており、この点について野党が強く反対しています。

 

改正の経緯

そもそも、2019年10月段階における改正案では、内閣が認めた場合に延長できる「特例」の話は入っていませんでした

しかし、2020年3月に法案が提出された際には、この「特例」が付け足されています。したがって、このような特例を設ける意義はあるのか、そのような特例を設けることに問題はないのか、という点に絞って行われるべきです。

なお、後述のとおり政府は特例にはきちんとした意義があると主張していますが、2019年10月~2020年3月の間に黒川氏の定年延長の件がありましたので、野党としては、政府の主張する意義はあくまで形式的なものであり、真の目的は法改正によって後付けで黒川氏の定年延長を正当化するものではないか、という形でも批判を繰り広げているところです。

以上みてきたところから明らかなとおり、↓の前段のように「一般の公務員と同様に定年を引き上げる改正に過ぎない」という理由のみで賛成するのは、そもそも法案を正しく理解していないという意味で入り口のところで間違っている意見ということです。

 

賛成派の主張するメリット(pros)

国会における質疑によれば、政府が主張するメリットは、検事長等が異動することにより業務の継続的遂行に重大な障害が生ずる可能性があるため、そのような場合に内閣による定年延長の特例を適用して対応する必要がある、という点です。

そして、森法務大臣の答弁によれば、黒川氏に関してこのような重大な障害が認められたこと、これまでにこのような重大な障害が認められたのは黒川氏のケース以外にはないこと、が明言されています。

また、このような改正を正当化する理由として、そもそも検察庁は行政機関であり、検察官の任免権は法務大臣にあり、検察権の行使については内閣が国会に対して責任を負うこととなっていること、という統治のシステムが挙げられています。

 

反対派の主張するデメリット(cons)

三権分立、検察官の独立性が損なわれること

反対派の主張の主な柱は、三権分立や検察官の独立性が損なわれる、という点にあります。

少々複雑ですが、この議論にはいくつか重要な前提があります。

検察官の身分の特殊性

前述のとおり、検察庁は国家の三権のうち行政権に分類され、検察官の任免権は法務大臣に帰属します。

他方で、検察官は法の厳格、公平公正な執行という意味で司法権と密接な関係にあり、検察権の行使は行政権(法務大臣)から一定程度独立して行われる必要があるという点で通常の行政権とは性質を異にし、行政権から一定程度の独立性を確保する必要があると考えられています。

すなわち、ここでは、

  • 検察官の、三権では行政権に帰属するという性格

と、

  • 検察権の、準司法官的な性格、あるいは行政権からの独立性

とが対立しているといえます。

反対派としては、まさにこの「準司法官的な性格」を、行政権への帰属という点よりも重視しています。(簡単に言い換えれば、検察官が、行政権が違法行為を行っていると考える場合には、きちんと検察権の行使を行えるようにすべき、ということになります。)

 

判断基準のあいまいさ

もうひとつの議論、これは1点目とも関連していますが、判断基準のあいまいさという点です。

政府は「検事長等が異動することにより業務の継続的遂行に重大な障害が生ずる可能性がある」という点を立法の理由として挙げていますが、上記のよう三権分立や検察官の独立性を阻害することのないよう、きちんとした基準を設けるべきではないか、という点です。

それに対して政府は、今後定められる人事院規則に準じる形で、今後議論をする必要があるため、人事院規則が固まっていない現時点では明確な基準を示すことはできないと主張しています。

 

その他の議論

黒川氏との関係

報道などでは、黒川氏の定年延長との関係についての主張が目立ちますが、現状では議論の中心はあくまでも今回の法案の当否であるべきです。黒川氏の定年延長はすでに閣議決定されています。

(もっとも、そもそもその当否については意見が様々な意見がありますが、そのことを今議論しても仕方がありません。)

 

まとめ

議論がやや複雑化していますが、論点に絞ると上記の点になるのではないかと思います。

まとめると、

  • 内閣によって定年延長できるようにする特例はそもそも必要なのか?

  • その特例は三権分立や検察官の独立を阻害しないのか?(阻害するとして、認められる範囲の阻害なのか?)

  • 特例が必要だとして、基準をどこまで明確化すれば良いのか?

  • その基準は適切か?

議論整理の一助として、お役に立てましたら幸いです。